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2016年12月 7日 (水)

ママレモン50年

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 「ママレモン買ってきて」と子供の頃に母に命じられた記憶が確かにある。だが、そのとき実際にママレモンを買ってきたかどうか定かではない。おそらく店頭にある食器用洗剤の中で、そのとき安売りされていた洗剤を買って帰ったのだと思う。
 
 同じような経験をした方がおられないだろうか?これはつまり「ママレモン」という商品名を、食器用洗剤の代名詞として用いている事例である。
 
 久しく忘れていたこの経験を、衝撃的な形で先月思い出した。当館の清掃を請け負っている女性がある朝、雑談のときにこう話してくれたのである。「ママレモン買ってきて、と娘に言ったら、お母さんママレモンって何?って言われたんですよ」。
 
 そう言えば、皆さんの家庭の台所にママレモンそのものはあるだろうか?かつて私の家にもママレモンは確かに存在した。いつもママレモンだったとは限らないが、ママレモンと聞けば黄色いパッケージの画像が頭に浮かぶ。
 ところが、最近の若い世代は既にママレモンを頭に浮かべることができなくなっているらしい。というのも、この清掃員の方の話を聞いたあと、その日1日、教育委員会の事務局職員から図書館の司書から図書館を訪れていた来館者まで、会う人会う人片っ端から「ママレモンって知ってます?」と聞いて回った結果、ある世代以下は確かに「ママレモン?なんですかそれ?」という回答を得たからである。
 
 これはすなわち、家庭からママレモンが消えつつあるということである。いや、既に消えている。実際の家庭の台所には、ママレモン(ライオン)に代わって、ジョイ(P&G)、キュキュット(花王)などが幅を利かせている。そもそもママレモンの発売元であるライオンからして、最近はCHARMY Magica(チャーミー)をヒット商品として押し出している。もはやママレモンは、食器用洗剤の代名詞としての存在感を失っていたのだ。
 
 これは生活文化史的に重要な現象のひとつではないだろうか。唐揚げとは異なる西洋式のスパイスと衣を付けた揚げ鶏の名称を「フライドチキン」として広めたのは、ケンタッキーチェーンであることは紛れもない事実で、ケンターキーフライドチキン(もしくは単にケンタッキー)がフライドチキンそのものを指す代名詞として、今日も広く使われている。同時期にやはりアメリカから参入してきたマクドナルド=ハンバーガーも同じだろう。
 ステープラーは、明治時代にイトーキの前身、伊藤喜が輸入した「ホッチキス自動紙綴器」から始まる「ホッチキス」または「ホチキス」なる商品名の方を用いないと、もはや言葉として通用しなくなっており、商品名代名詞の代表的存在だ。
 
 これらが商品名代名詞として不動の地位を確立しているのに対し、ママレモンのように、その後、同様の商品が多様化して地位を落としている、すなわち代名詞の座を降りつつある商品は他にも存在するはずである。コーラの代名詞であるコカ・コーラとか、乳酸菌飲料であるヤクルトとか。こうした現象は、消費型市民経済の発達による商品多様化を示す紛れもない証拠であり、博物館としては記録に値するのではないか?と思うようになった。
 
 ちなみに、調べてみるとママレモンは1966(昭和41)年に、当時のライオン歯磨株式会社(現在のライオン)から発売された。つまり今年で登場50年なのであった。
 
 登場から半世紀を経たロングセラー商品はいま、一般家庭の台所からは存在感を薄くしており、もっぱら中規模事業所の流しなどを中心に用いられている。静かに歴史を継承するママレモンに敬意を表し、今月から博物館の流しにもママレモンを配置している。
 
 

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コメント

コメントをありがとうございます。
偶然にも、記事からちょうど1年後の出会いで、私もママレモンの不思議な力を感じてしまいました。
 
いまは使われなくなった商品名由来の名詞と共に、私の知らない、新しい商品名転化名詞もきっとあるはず。まさに今日、清掃の方が「松井棒」と呼ぶ道具を目にして、それも記録しておこうと頼んだところでした。

また何か気づきがありましたら、宜しくお願いいたします。

投稿: 持田 誠 | 2017年12月 7日 (木) 18時15分

商品名が名詞化するのはよくあることです。
「ウオークマン」〈ソニー〉「ファミコン」〈任天堂)「サビオ」(ニチバン・ライオン歯磨き〉「バンドエイド」〈ジョンソンエンドジョンソン〉等々。
枚挙にいとまがありません。
「ママレモン」に関して若い世代に通じなくなっている事実に直面し、改めて自分が年をとったことを認識し、寂しくなりました。

掃除中、「ママレモン」の事がふと気になって、若い世代に通用しない体験をした方がいるのではないかと検索してみたらヒットしました。
丁度1年前の記事だったことにびっくりし、何か「ママレモン」の見えざる力を感じてしまいますね。

投稿: いたば | 2017年12月 7日 (木) 11時28分

確かに、ログセラーなのには理由があるはずですね。
浦幌も含め、事業所ではまだ使っているところが結構多く、理由としては単純な洗剤な部分、容量が多くて廉価だという事が考えられますが、他にも理由があるかもしれません。調べてみます。

投稿: 持田 誠 | 2016年12月12日 (月) 08時30分

ママレモンがまだ存在していることにビックリしました。
リニューアルやら新製品で洗剤類は色々と変わっていますが、ママレモンが生き残っている理由が知りたいですよね。

投稿: 小野ゆかり | 2016年12月11日 (日) 11時15分

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