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2013年11月12日 (火)

「モニ1000」研修会で知った「図鑑」の現状

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 11月9-10日、大阪市内において、日本自然保護協会主催の「モニ1000」研修会とシンポジウムが開催された。と言っても「モニ1000」というのが何だかわからない方が多いと思う。恐らくだが鉄道ファンなら、「モニ1000」と聞いてまず思い浮かべるのは、元相模鉄道のモニ1000(小田急時代のモハ1000)や元旭川電気軌道のモハ1000のような電車の形式ではないだろうか(私はそうだった)。
 
 しかし「モニ1000」は鉄道とは関係なく、「モニタリングサイト1000里地調査」の略称である。これは日本自然保護協会が提唱し、全国の市民団体が取り組んでいる身近な自然の変化を記録する調査活動の事で、サイトを全国1000箇所、そして調査を「100年続けよう」が目標になっている。詳しくは日本自然保護協会のこちら参照。
 
 今回は「モニ1000」に取り組んでいる各地のリーダー格の方が集まり、研修と各サイトの抱える問題点について話し合った。写真は2日目の会場である大阪府立大学で「モニ1000」の意義について語る日本自然保護協会の後藤さん。
 
 
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 初日の会場は大阪市立自然史博物館。ここでは私と同館学芸員の佐久間さん、北海道大学総合博物館教授の大原さんの3名で、同定技術講習会として、標本の役割や検索表を使った同定について、標本の作り方、博物館との連携、そしてパラタクソノミスト養成講座について紹介した。もちろん、これだけのメニューを1日でこなすのは無理なので(実際、植物パラタクだけで通常は2日間かけて実施する)、ほとんどを紹介に費やし、メインは最後の「博物館など専門機関との連携」について、会場との議論にあてるようにした。
 
 写真は標本を手に、標本の目的や活用の意義について話す大阪市立自然史博物館学芸員の佐久間さん。
 
 
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 今回、ここで私の方から会場の方々にどうしても聞いてみたかったのが、本州の方はいつもどのような植物図鑑を使っているか?との事であった。と言うのも、北海道は実は日本で最も図鑑の充実しているところで、「モニ1000」を始めとする市民調査では、もはや全国版の図鑑を利用する必要性が全く無いくらいにまでなっているからである。しかし、本州には私の思いつく限り、そのような充実した図鑑は無い。
 
 案の定、会場からはいくつかの代表的な図鑑名があがった。「そうなのか!」と思ったのが山と渓谷社から出ている『野に咲く花』『山に咲く花』。恐らく、北海道の私たちが『新北海道の花』を使う感覚で、この写真図鑑が使われているのである。
 
 そして意外にも多くの方が常用しておられたのが、『フィールド版日本の野生植物』。この図鑑は思い切った図鑑で、本文が省略されて写真と検索表しか無い図鑑である。これを常用しているのなら、もうそれはスペシャリストである。ただ、よく話を聞くと似た者同士の同定に困った際に何となく使っているという方が多いらしい。
 
 もっとも驚いたのは、保育社の『原色日本植物図鑑』。初版1957年、以来日本の植物図鑑の代表格ではあるのだが、用語も古くて現代の初心者には使いづらい図鑑と思われてきた。しかし、この図鑑が未だ現役のサイトも存在していた。
 
 この段階で「うーん」と唸ってしまった。つまるところ、世の中にカラフルな図鑑がいろいろ出回ってはいるものの、実際に使える図鑑はそれほど多くないという事である。さらに、その後の多くの参加者から寄せられた要望や意見のひとつが「良い図鑑が無い」だった。現状を見るとまさにそうだろうなと思う。
 
 つまり昨今の出版事情と需要がリンクしていないという事である。もちろん、細かいところでは人々の需要に十分に応えられる図鑑はむしろたくさん出版されている。全農協の『日本帰化植物写真図鑑』はもはや常識になっていたし、『イネ科ハンドブック』はじめ文一総合出版のハンドブックシリーズも歓迎されている。だが、もっと網羅的な図鑑、いわゆるフツーの植物図鑑に、新しい良いものが無いと言う。
 
 逆に言えば、北海道の我々は、良質な図鑑の存在で、検索表などが必要な全国版の図鑑に接する機会が低くなっている。つまり甘やかされているという事でもある。このギャップがすごいなと実感し、大きなショックを受けた。
 
 全国の方々のこの「良い図鑑」への渇望は、北海道の我々には想像できない深刻な事態な気がする。これに応えるのが専門家の役割だろうが、いちど今回の声を日本植物分類学会などに届けてみたいと思う。
 
 

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