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2013年4月 2日 (火)

「番線印」で街の書店を記録に残す

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 これを見て一目でピンと来る方は、業界人か、なかなかの書店通だと思う。これは「番線印」と言って、書店が取次会社(本の問屋さん)との間で用いる印である。
 
 
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 日本では通常、店頭で並んでいる本の間に「スリップ」とか「短冊」と呼ばれる細長い紙片が挟まっている(写真右)。この紙片の片面上部には四角い空欄があり「書店(帖合)印」と書かれている。
 店頭で本が売れると、書店員はスリップを抜き取って保管。後に売り上げ分のスリップのこの空欄に、先の番線印を押す。集まったスリップを取り次ぎ会社へ回し、取次会社は版元(出版社)へ運ぶ。版元はスリップの分だけ新たに本を出荷。取り次ぎを経て書店に本が補充される。
 
 近年、Amazonなどのネット通販やコンビニ販売などを考え、本の裏表紙やスリップ本体にもバーコードが刷られるようになった。必ずしもスリップと番線印を用いなくとも本が流通されるようになっているので、ネットで本を買うとスリップも挟まれたままになっている事がある。だが、番線印に書かれた数字(番線)は、今も取り次ぎと書店、出版社を結ぶ重要な記号になっている。
 
 
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 3月30日、帯広市の大空団地で経営を続けてこられた松本書房が、店を閉じた。帯広市は個人経営書店がきわめて少ない地方都市で、喜久屋さんと提携するザ本屋さん系列を除くと、書協に加盟している帯広資本の書店は、松本書房の他、1軒を残すのみだった。残る1軒は学校取引中心の書店なので、昔ながらのいわゆる「街の本屋さん」の最後が、この松本書房だったと言って良い。
 
 
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 この写真は閉店の3週間ほど前、まだ本がたくさん並んでいる頃の書店内の風景を写真に撮らせてもらったもの。雑誌が並ぶ真ん中の棚と、単行本や文庫が並ぶ壁際の棚。反対側の壁は文房具販売になっている。店主は毎日配達に忙しく、この日も昼間は留守だった。個人書店は店頭以上に、定期購読や注文書の配達が重要な売り上げになっている事を示している。
 
 
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 足を運んだ限りでは、数は少ないものの、常にお客さんが出入りしている。それもそのはず。この書店、経営自体は店主の地道な努力により黒字なのだそうである。高齢となり、本州の御子息の所へ身を寄せるとの事で、今回の閉店となった。
 
 真向かいにスーパーがあり、団地に住む人達が買い物帰りに立ち寄っていく。子供達もフラリと入って来て、店員さんと言葉を交わしていく。
 
 営業最終日となる30日の夕方に店を訪れると、もう配達も無くなり、レジに立つ店主のもとへ挨拶に立ち寄る人たちのなんと多いことか。
 
「さびしくなりますね。」
「永い間おつかれさま」
「フラッと入れる本屋さんが無くなって子供が寂しがっているんです」
 
などと声をかけていく人が後を絶たない。以前に務めていた事があるという女性は、花束を持参して挨拶に来られていた。街の人に愛されてきた書店の姿を見た。
 
 
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 この書店の姿を記録しておきたい。真っ先に思いついたのが、先の番線印である。取り次ぎを経て本が行き交う日本の書店制度を象徴する、まさに書店固有の備品である。店主に意向を伝え、後日、閉店業務が一段落したら御寄贈いただく事となった。
 
 帰り際、ふとレジに書店名の入った領収書がある事に気づいた。お願いし、1束を資料として頂いた。さらに図々しいお願いをし、領収書の表紙に番線印をくっきりと押して貰った。帯広市で人々に愛され続けていた書店の証として、帯広百年記念館で大切に伝えていきたい。
 
 
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 貧乏人ながら、私は『鉄道ピクトリアル』『月刊地理』『運輸と経済』の3誌を定期購読している。小樽時代、これらの雑誌は、それぞれ別々の書店から購入し、配達してもらっていた(『運輸と経済』は当時購読しておらず、別の雑誌を買っていた)。駅前の長崎屋1階に入っていた「いろは堂書店」と、花園商店街の「工藤書店」である。小樽在職中、いろは堂が店を閉め、外注専門となり会社名も「本のイロハ堂」となった。手元には今も領収書が残っている。番線印も押して貰えば良かったと今も後悔している。
 
 各地で街の本屋さんが消えている。地域博物館としては、番線印を、印本体は貰えなくとも、店名の入った領収書と共に押印してもらい、資料として残すというのはどうだろう。そしていつか各館合同で「番線印と街の書店」展ができたら楽しいと思っている。
 
 松本書房さん、長い間おつかれさまでした。
 
 

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